【なぜ?】大事な試合前に限ってケガをする、その本当の理由とは

【なぜ?】大事な試合前に限ってケガをする、その本当の理由とは

「さあ、いよいよ大事な試合だ!」 「このセレクションで、絶対にアピールするぞ!」 「明日から待ちに待った遠征。最高のコンディションで臨みたい」

そんな、これからの競技人生を左右するかもしれない大切なタイミングに限って、体に痛みが走る。まるで狙いすましたかのように、古傷が痛み出したり、新しい怪我をしてしまったり…。

あなたにも、そんな苦い経験はありませんか?

「どうしていつも自分だけ…」「運が悪いんだ」と落ち込んでしまう気持ちは痛いほど分かります。しかし、それは単なる不運や偶然ではないかもしれません。大事な時に繰り返される痛みは、実はあなたの体が発している、切実な「メッセージ」なのです。

今回は、なぜ大事な時に痛みを繰り返してしまうのか、そのメカニズムを解き明かし、怪我の連鎖を断ち切ってパフォーマンスを向上させるためのヒントをお伝えします。

  • なぜ?大事な時に限って痛む「体からのSOS」

なぜ、よりによって一番大事なタイミングで痛みはやってくるのでしょうか。それは、体からのサインを、あなたが「気づかざるを得ない」状況だからです。

考えてみてください。普段の練習でのちょっとした違和感。「まあ、このくらいなら大丈夫だろう」「休んでいる時間はない」と、つい見過ごしてしまっていませんか?

体は、私たち自身が思っている以上に正直で、賢い存在です。体に何らかの不都合が生じた時、まずは小さなサインを送ってくれます。

  • 練習後の特定の箇所の張り
  • いつもより動きが硬いという感覚
  • 寝ても取れない、地味な疲労感


これらはすべて、体からの「ねえ、ちょっといいかな?」という小さな呼びかけです。しかし、私たちは目標に向かって突き進むあまり、その小さな声を無視しがちです。

「生活習慣が乱れて、回復が追いついていないよ」 「その練習、今の体の状態には負荷が高すぎるよ」 「体の使い方が偏っていて、一箇所に負担が集中しているよ」

体は、こうした根本的な原因に気づいてほしくて、サインを送っています。しかし、私たちがその声に耳を傾けず、痛みを抑えることだけに注力してしまうと、体は次の手段に出るしかなくなるのです。

  • 無視し続けるとどうなる?痛みのエスカレーション

もしあなたが誰かに声をかけた時、返事や反応がなかったらどうしますか?きっと、先ほどよりも少し大きな声で呼びかけますよね。それでも気づいてもらえなければ、肩をトントンと叩くかもしれません。それでもまだ無視されたら…少しイラッとして、「おい!」と怒鳴ったり、もっと強く肩を揺さぶったりするのではないでしょうか。

実は、私たちの体の中で起こっていることも、これと全く同じです。

第1段階:小さな声(違和感・張り) 
最初のサインは、ささやき声のようなものです。「なんか今日、腰が重いな」「膝に少し違和感があるな」。この段階で気づき、ケアをしたり、練習内容を調整したりできれば、大事には至りません。

第2段階:大きな声(軽い痛み)
 小さな声を無視し続けると、体は「気づいて!」とばかりに、少し大きな声、つまり「痛み」としてサインを送ってきます。練習中は気にならないけれど、終わると痛む。朝起きると痛い。この段階で、多くの人が痛み止め・鎮痛剤や湿布で「声を無理やり黙らせよう」とします。しかし、これは根本的な解決にはなりません。

第3段階:怒鳴り声(強い痛み・怪我)
 それでも気づかずに突き進むと、体は最終手段として、強制的にあなたを止めにかかります。それが、試合やセレクションといった、あなたにとって最も重要なタイミングでの「動けなくなるほどの強い痛み」や「怪我」なのです。「もう、こうでもしないとあなたは気づいてくれないでしょ!」という、体の悲鳴にも似た怒鳴り声です。

大事な時に痛みが出るのは、そのタイミングが、あなたにとって最も「無視できない」状況だから。体は、あなたが真剣に耳を傾けざるを得ない時を狙って、最大限のボリュームでSOSを発信しているのです。

  • 沈黙する体ほど怖いものはない

では、もしその怒鳴り声さえも無視し続けたら、どうなるのでしょうか?

何度も話しかけているのに、完全に無視され続けたら…あなたならどう感じますか?「もうこの人に話しかけるのはやめよう」と、コミュニケーションを諦めてしまうのではないでしょうか。

体も同じです。痛みというサインを送り続けても、全く改善の努力が見られないと、体はついに合図を送ることをやめてしまいます。これを「体の感度が悪くなる」状態と言います。痛みを感じにくくなるため、一見すると治ったかのように錯覚するかもしれません。

しかし、これは最も危険な状態です。警報システムが作動しなくなった車で、高速道路を走るようなもの。どこで何が起きてもおかしくありません。そして、ある日突然、前触れもなく「ブチッ」と体が壊れてしまう。アキレス腱断裂や前十字靭帯損傷といった、選手生命を脅かすような大怪我に繋がるケースも少なくないのです。

また、体の感度が悪くなることは、パフォーマンスの精度にも大きく関わってきます。ミリ単位の調整が求められるスポーツの世界において、「自分の体が今どういう状態か」を正確に把握する能力は不可欠です。感度が鈍った体では、繊細なコントロールは望めません。なんだか調子が上がらない、スランプが続くといった状態の裏には、この「体の沈黙」が隠れていることもあります。

  • ケガ予防とパフォーマンス向上は同じ道の上にある

ここまで読んで、「怪我をしないためには、体の声を聞くことが大事なんだな」と感じていただけたかと思います。しかし、話はそれだけでは終わりません。実は、「怪我をしないこと」と「スポーツが上達すること」は、全く同じベクトル上にあるのです。

考えてみてください。怪我を繰り返している期間、あなたは何をしていますか?本来であれば技術練習やトレーニングに費やすべき時間を、リハビリや治療に充てることになります。チームメイトがどんどん成長していくのを、あなたはベンチやグラウンドの外から見ているしかありません。これは、上達の階段を登れずに、同じ場所をぐるぐる回っているようなものです。

一方で、体の声に耳を傾け、根本原因(体の使い方、トレーニング方法、栄養、休養など)を改善していくプロセスは、そのままパフォーマンス向上に直結します。

  • 体の使い方を見直す 効率的な動きが身につき、パワーと精度が向上する
  • 練習の負荷を最適化する オーバートレーニングを防ぎ、質の高い練習が継続できる
  • 栄養や休養に気を配る 回復が促され、コンディションが整い、より強い体になる


つまり、怪我を予防するための取り組みは、そのまま競技者として成長するための土台作りそのものなのです。体からのサインは、「ここを直せば、もっと上手くなれるよ」という、あなた専属の超一流コーチからのアドバイスに他なりません。

どうか、体からの小さなサインを見落とさないでください。痛みは敵ではなく、あなたをより高みへと導いてくれる最高のパートナーからのメッセージです。その声に真摯に耳を傾け、対話を始めることが、怪我の連鎖を断ち切り、あなたがまだ見ぬポテンシャルを最大限に引き出すための、最も確実な一歩となるはずです。

著者プロフィール  高橋 迪大(たかはし みちお)

たかはし鍼灸接骨院 院長
鍼灸師・柔道整復師・鍼灸専科教員
京大フェンシング部 トレーナー
NPO法人 TRAINER'S BANK 理事

《経歴》

  • ビーチサッカー日本代表選手のトレーナー
  • JFL 京都佐川印刷SC トレーナー
  • 京都精華学園中学・高等学校女子サッカー部 トレーナー
  • 和邇SSS トレーナー・コーチ
  • オスグッドの専門家としてTVへの出演